カタリココ文庫のつぎの新刊がもう出ました!

『スナップショットは日記か? 森山大道の写真と日本の日記文学の伝統』は、『室内室外 しつないしつがい』に引き続いて、<散文シリーズ>の一冊です。
ハッセルブラッド国際写真賞という、世界の写真家にとってもっとも名誉ある、写真界のノーベル賞とも言われる写真賞があります。昨年、40周年をむかえた節目の年に、森山大道にこの賞が贈られました。
本書は、スウェーデンのヨーテボリで行われた授賞式の模様を皮切りに、森山大道の写真の核心を探った内容です。
森山の写真は、街路で目にしたものをスナップショットするという単純な方法で撮られていながら、世界が異界に満ち満ちていることを見る者に突きつけます。
日々歩いて撮るというシンプルさと、それが生みだすイメージとの飛躍。
この2点に注目し、ドナルド・キーンが『百代の過客』のなかで指摘した日本の日記文学の伝統と、スナップショットの特質を比較してみました。スナップショットは1950年代、カメラの小型化とともに広まり、世界的には衰退する傾向にありますが、日本では森山大道をはじめとしてこれにこだわる写真家は多く、若い世代にも引き継がれています。
そこには、平安時代以来の日記文学の伝統がメディアにかたちを変えて継承されているのではないか。
コロナ禍にあって日記が見直されているいま、本書にはさまざまな方向に考えを発展させる可能性を秘めているかもしれません。
写真について書かれた本は、専門用語や思想書からの引用が多く、難解になりがちです。
写真はだれでも撮れる身近なものにもかかわらず、それについて語ろうとするとどうして難しい文章になるのか、というのは長らく私の疑問でした。今回の本ではそれに挑戦し、写真の外に立って内部を観察しようと試みました。
旅紀行やエッセイや評論の要素を併せ持ちながらも、そのどれにも属さない独自のものが書けたような気がしています。写真に関心のある人はもちろん、そうではない人も自然に入って読み終えることができるものになっていればうれしいです。
本稿の初出は『新潮』(2020年7月号)。それに6月19日に行った森山大道への最新インタビューを収録し、巻末に略年譜も付けました。折りしも東京都写真美術館では森山大道展が開催中ですので、展覧会と併せてぜひ。
<カタリココ文庫>のサイトをつくりましたので、取扱店はそちらでご確認ください→カタリココ文庫(2020.8.13)