荒木経惟さんをお迎えしての、2016年6月2日のカタリココのご報告。

007_convert_20160622102843.jpg004_convert_20160622102922.jpg017_convert_20160622102941.jpg「遅れると心配すると思ってさ!」
会場の神保町ファインアーツにアラキさんが現れたのは開演の30分も前の6時半のこと。こんなに早く来てくださったゲストは初めてで、恐縮するとともにアラキさんの心遣いに感激。数日前、『センチメンタルの旅』のコンタクトシート展でお会いしたときも、「なにを話せばいいの?」と気にしてらしたので、「私の質問に答えてくださればいいんです!」とご返事したのですが、実際にトークがはじまるとアラキさんの独壇場。つぎつぎと話題が飛び出し、会場は爆笑の渦に! 
とはいえ、『センチメンタルな旅』についてこれだけは訊きたいと思っていたことは伺えました。新婚旅行の旅程を立てたのは陽子さんで、アラキさんは言われるままに従っただけとのこと。つまり京都のあと、陸路ではなく神戸から船で九州に渡り柳川に行ったのは、陽子さんの選択だったのです。写真集の後半はその柳川のシーンで埋められ、一つの山場を成していますが、その下地は陽子さんのなかにあった水の旅のイメージだったのがわかりました。
宿泊したのは柳川藩主立花家の屋敷跡の旅館。広い庭があって、書院作りの屋敷と洋館がたっていて、でも客は彼らだけで、どこを歩いてもだれにも会わない。そこで成り行きで陽子さんのヌードを撮影、となった次第。
持参したカメラはニコンFで、レンズは20ミリ一本、というのにも驚きました。「だから顔がひん曲がったりしてんだろ?」。広角ですから、寄りで撮ると顔が横にひっぱられて歪むんですね。それがなんともシュールな味わいをかもしだしてますし、またどの写真にも遠さが感じられるのも広角レンズのためでしょう。つまり、シュールで遠い感覚の写真にしたい、という目論みのもとにこのレンズを持参したのです。
アラキさんの場合、なにを撮るかは出たとこ勝負ですが、カメラとレンズの選択は厳密になされます。それは世界との距離と関係はカメラアイに決定されるからです。ちなみに、彼は撮った写真はすべて使用機種ごとにファイルしているそうで、この話もアラキさんがカメラという「眼」にどれほど意識的かを物語っているでしょう。
今回、『センチメンタルな旅』をコンタクトも含めてじっくりと眺めて改めて、視線が老成していることに驚かされました。31歳の人が撮ったとはとても思えません!この若さでこういう写真を撮る人は、この先どうなってしまうんだろう!? と思うほど、世界に向ける眼差しに熱狂がないのです。かつてインタビューで「汗はかくけど熱しない」と語ってくれたことが印象に残ってますが、まさにそのとおりのことがデビュー写真集には出ています。
この老成した眼差しと、少年のようなやんちゃな視線という二極のあいだを写真で往還しつづけている人。それが私の思い描く「荒木経惟像」です。その振幅の大きさにこそ、彼のエネルギーの源泉があるのではないでしょうか。
アラキさんの写真を探る旅はこれからもつづく予定で、今週末にはパリのギメ東洋美術館で開催中の彼の写真展に取材にいってきます。またどこかでそのご報告ができると思いますので、楽しみにお待ちください!(2016.6.22)

*3番目の写真は『センチメンタルな旅』のページを開いてアラキさんが説明をしているところ。「向かって右の写真はタテ位置で撮ったものを横にしたみたいに見えるけど、そうではないんだ!」。陽子さんの膝枕の上から寝転んで撮ったヨコ位置写真なのです!(会場写真の撮影はサカタトモヤさん)