ありがとう&さようなら、若松孝二さん!

若松孝二さんの訃報に接して思い出したことがあります。ある取材のために、彼の運転するバンに乗って東京湾の埋め立て地にいったことがあるのです。手前に検問所があり、許可なしには埋め立て地には入れないのですが、係員が新聞を読んでいるすきに若松さんはアクセルを踏み込み、突破してしまいました! 
 『図鑑少年』という短編集のなかの「人工島」という作品は、あの日の出来事がベースになって生まれたものです。突破したあとに見た埋め立て地の光景、そこから都心の夜景を遠望したときの感情、姿は見えないのに上空から聞こえてきた鳥の声などは、どれも実際に体験したものでした。
行くか行かないかの境目で進むことをとった若松さんの決断なしには、あの不思議な宵はなかったと思い返し、ここぞというときに常にアクセルを踏み込んできた彼のあとにつづく者にわたしもなりたい、そう思いました。若松さん、ありがとうございました。(2012.10.19)