葉山と、浜田知明と、夜明けのひぐらし。

R0011437_convert_20100808113404.jpg 金曜の夕方から葉山の久留和海岸の近くにある友人宅に留守番に来ている。正確には葉山町ではなく、横須賀市だが、御用邸あたりまでは漂っている観光地っぽい雰囲気が、長者ヶ崎を越えて三浦半島にのびる海岸線が見えるあたりから一気に変わる。スーパーもコンビニもなく、水着姿でデレデレ歩いている人もいない、のどかで気持ちのよい海辺町。
 友人宅は高台にあり、2階のベランダ前には180度の視界が広がり、海と山が同時に望める。ここでの日課は単純で仕事・読書・散歩の繰り返し。そのシンプルさがとてもよく、一日はこんなに長かったかと思うほど時間がたっぷりある。
 昨日は日差しが傾いてきた頃、神奈川近代美術館葉山に浜田知明の展覧会を見に行った。大正6年生まれで、93歳のいまも現役、諷刺の利いた版画作品のほか、途中からは彫刻作品も作った。作品を見るのははじめだったが、2000年以降の彫刻作品に心が動いた。それまで足長、腰高で、頭が大きく、鼻のとがった欧米人に似た人物像だったのが、最近作では筋肉が弛緩して形の崩れた、かろうじて人間の形を留めているような人物に変わってきたのだ。好みにもよるだろうが、私には80歳を過ぎて作家が作りあげた、諷刺よりも悲哀感の漂うこの人物像のほうが感覚的にフィットした。世間は夭折の作家が好きだけど、本当におもしろいのはひとりの作家が長い人生をつうじてどう変化していくかではないだろうか。少なくとも私にとってはそう。R0011419_convert_20100808114923.jpg
 帰りは一色海岸を通り、長者ヶ崎の裏手の尾根を歩いてもどった。夏にしては珍しく、富士山が夕映えに赤くそまって広重の版画のようにくっきりと見えた。得した気持ち。
 東京では日の出とともに目が覚めるなどということはめったにないのに、ここでは2階の窓辺で寝ているので空の明るさで目が開く。今朝もそうだったが、日の出と同時にカナカナカナとひぐらし蝉が鳴きだしたのに驚いた。ひぐらしは夕暮れに鳴くものと思っていたが、夜明けにも鳴くとは! 体が日の出と日の入りに反応するように出来ているのか。ひぐらしのイメージが一変してしまった。(2010.8.8)