「動坂下」の輝き、地名の呪力。

?連休最終日、昼過ぎに逗子からもどって一休みした後、このまま終わるのはもったいない、夕暮れの散策をせねば、という思いに背中をつつかれ、日暮里から田端方面を歩いた。この界隈の散策はこれで4度目だが、田端駅を背に動坂下を見下す風景は何度見てもぐっとくる。街灯のつきはじめた道路の人恋しい感じもいいが、「動坂下」という言葉の響きにも心を揺らすなにかがある。「動坂」は本郷通りから不忍通りに下りて行く坂。坂上に不動尊があることから「不動坂」と呼ばれていたのが、縮まって「動坂」となったらしい。「不動坂」は「うごかない坂」だが、「動坂」は「うごく坂」で、意味が逆さまになったわけだ。
「動坂下」はちょっとした繁華街になっている。「動坂食堂」とか「動坂坂道通り」とか、少し上には「動坂動物病院」とか、目を引く名称が多くて見るたびにうふっと笑いが込み上げる。それに「坂」に「下」がつくととたんに魅力が増すのである。「上」よりだんぜん「下」のほうがいい。どの坂にもそう感じるのは、坂下ににぎわいのあることを体が知っているからだろう。それに「動坂下」と口にした途端に、時代を飛び越えて『三四郎』の世界とつながるような感じもあって、名前というのは本当に不思議である。?
以前歩いた八幡神社横の「ポンペイの遺跡」にも行ってみた。夕焼けに染まった空の下、前とはまたちがう雰囲気に魅了されてしばし佇んでシャッターを切る。都心の高台ならどこからも夕陽が臨めるはずなのに、田端の夕陽がことのほか印象的に感じられるのはなぜだろう。夕陽とはこういうものだったか、とはじめて心づいたような気持ちがした。(2010.7.20)